Eulerのトーシェント函数

Euler*1のトーシェント函数*2とは主に \varphi(n) と表記される、整数論における函数です。次のように定義されます。
$$
\varphi(n) = \#\{k \mid 1 \leq k \leq n,\ \gcd(n,\,k) = 1\}
$$
日本語で書くと 1 から n までの整数のうち、n と互いに素な整数の個数となります。
今回は n が有限の自然数からなる集合 S を用い、p_ii 番目の素数として $$
n = \prod_{i \in S} {p_i}^{e_i}\hspace{2em} (\forall i \in S,\ e_i \geq 1)
$$ と素因数分解されるとき、
$$
\varphi(n) = \prod_{i \in S} ({p_i}^{e_i} - {p_i}^{e_i - 1}) = n \prod_{i \in S} \left( 1 - \frac{1}{p_i} \right)
$$
となることについて証明っぽいことをしていきます。

$n$ が素数の累乗のとき

S = \{t\} のときで、p_t = p, e_t = k とすると n = p^k と書けます。
このとき $$
\varphi(n) = \varphi(p^k) = p^k - p^{k - 1} = p^{k - 1} (p - 1) = n \left( 1 - \frac{1}{p} \right)
$$ となります。
これは、\gcd(n,\,a) \neq 1 となるとき ap の倍数であり、1 から p^k = p^{k - 1} p の整数のうち、p の倍数であるのは p,\,2p,\,\dots,\,p^{k - 1} pp^{k - 1} 個であることから示せます。

乗法的という性質

数論的函数*3 f(n) が次の2性質を満たすとき乗法的といいます。


1. \gcd(a,\,b) = 1 \Longrightarrow f(ab) =f(a) f(b)
2. f(1) = 1
f(1) = 1 という条件についてですが、1 は全ての整数と互いに素であるため f(1) = e とすると f(n) = f(1 \cdot n) = e \cdot f(n) より f(1) = e = 1 または f(n) = 0 となりますが、全ての n で成り立つので f(1) = 1 または f が常に零となるのですが、そのうち常に零であるものを省くためのものになっています。

また、1. の性質の\gcd(a,\,b) = 1 という条件を省いた場合、すなわち a,\,b が互いに素であるかどうかに関わらず f(ab) =f(a) f(b) が成立する場合、完全乗法的といいます。

トーシェント函数の乗法性

トーシェント函数の乗法的です。つまり、mn を互いに素な2整数とすると
$$
\varphi(mn) = \varphi(m) \varphi(n)
$$ が成立します。これについては中国剰余定理を用いて証明します。

x1 以上 mn 以下の整数とし、
$$
x \equiv\left\{
\begin{array}{ll}
a & \pmod{m}\\
b & \pmod{n}
\end{array}
\right.
$$ とします。

xmn が互いに素なとき xm,\,n の両方と互いに素です。

中国剰余定理依り各 (a,\,b) に対応する x はそれぞれ1つづつ存在します。このような \{0,\,\dots,\,m-1\} \times\{0,\,\dots,\,n-1\} \rightarrow \{1,\,\dots,\,mn\}写像単射であり、両集合が同数の元を持つ有限集合であることから全単射となります。つまり、x(a,\,b) は一対一対応します。

以上から 1 から mn までの整数で mn と互いに素な整数の個数は \{0,\,\dots,\,m-1\} \times\{0,\,\dots,\,n-1\} の元で \gcd(a,\,m) = 1, \gcd(b,\,n) = 1 を満たすような (a,\,b) の個数であり、その個数は \varphi(m) \varphi(n) となり、乗法性が示されました。

冒頭の公式

ここで冒頭の公式を証明できるようになりました。乗法的であることから
$$
\varphi(n) = \varphi\left(\prod_{i \in S} {p_i}^{e_i}\right) = \prod_{i \in S} \varphi \left( {p_i}^{e_i} \right)
$$
となり、各素因数について上の公式より
$$
\varphi(n) = \prod_{i \in S} \left( {p_i}^{e_i} - {p_i}^{e_i - 1} \right) = \prod_{i \in S} {p_i}^{e_i} \left(1 - \frac{1}{p_i} \right) = n \prod_{i \in S} \left( 1 - \frac{1}{p_i} \right)
$$
となり、斯く示されました。

余談

名前について、トーシェント(totient)とは「たくさんの」という意味のラテン語単語totに由来する英単語ですが、「その数以下でその数と互いに素な正整数の個数」というこの函数の中身そのものの意味で、それ以外で用いあられることはありません。

また、この函数には他にも面白い性質があり、その性質とMöbius*4の反転公式によって冒頭の公式についての別の証明をすることができます。この性質についてはMöbius函数あたりについて記事を書くことがあればそのときに書くことにします。

*1:瑞独[ˈɔɪləɹ]: オイラー(Leonhard Euler) 色々な公式を作った人

*2:他にも Eulerのφ函数や単にEulerの函数とよばれることもある

*3:始域が正整数で終域が複素数である函数のこと

*4:独[ˈmøːbi̯ʊs] メビウス(August Ferdinand Möbius) 輪っかの人